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にっき

瞬木と剣城

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瞬木と剣城

タイトルそのまんまの小話ひとつ。副題つけるならなんだろ、「兄と弟」? センスがこい。
エースとFWが仲良くしてる図が無印でもGOでも好きです。

カテゴリ分け簡単にしてみたけどこんな感じかな?









手洗いに行こうと廊下を歩いていたらひょろりと背の高い人影が何やら右往左往しているのが見えて瞬木は足を止めた。
消灯時間になり灯りが絞られた暗がりの中でも不審人物が誰なのかは特徴的な髪のおかげですぐ分かった。我らがエースストライカー、剣城京介だ。昔流行ったという漫画の宇宙人を思い起こさせるような大きく逆立った髪の毛ははたして地毛なのか、はたまたそういうおしゃれなのか。瞬木は知らないしさして聞きたいとも思わないが、今のような暗がりや、たとえ人ごみの中でもすぐ彼を判別できる利点を考えればそう悪いファッションではないのかもしれない。
剣城は俯きながら廊下の一角を歩き回っている。探し物でもしているのだろうか。同じ場所をいったりきたりする様は、自宅にある小さな玩具を思い起こさせた。ネジを巻いたら進むだけのなんとも質素なものだ。まっすぐ進んでは壁にぶつかり、方向を変えて進んではまた壁にぶつかる、さして面白くもないそれは、幼い頃の瞬木がなんとか金を捻出して更に幼かった弟たちに買ってやった数少ないおもちゃの一つだ。買ってからかなりの年月が経っていて、もう塗装は剥げて元が何を模していたのかも分からない。瞬木からすれば単調な動きとあいまって随分間抜けで不気味な物体に見えるのだが、何が面白いのか弟二人はそれをえらく気に入っており大切にしている。ここに弟達がいれば剣城の動きを見て喜んだのだろうか。思いながら声をかけたのは親切心からではなく、ただ単に通り道を塞いでいて邪魔だったからである。
「何してるんだよ」
剣城は大きく肩を震わせて足を止め、瞬木の方へ振り向いた。黄金の瞳は彼の名の通りに剣の様な鋭さを帯びている。刃を向けられないよう降参とばかりに両手をあげると味方を認めた剣先が下がった。
「瞬木か。……それが、落し物をしてしまって」
「この辺で?」
「多分……。最後に見たときから落としたことに気づくまでそう時間がたっていないからすぐ見つかるかと思ったんだが、こう暗いとやりにくいな」
余程大切なものなのだろうか、いつもの落ち着きはなく、不安そうに視線をあっちこっちへ彷徨わせている様を見ていると、大切なおもちゃを壊してしまい必死に涙を堪える弟の姿と剣城が重なった。そうかよ、じゃあなと返して目的地に向かうつもりだったのに気づけば何を落としたんだと尋ねていて、その声は我ながら思わず笑いが出るほど柔らかかった。
剣城はゆっくり瞬いてこちらをじっと見る。刀身はいつのまにか懐にしまったようで、瞳の奥は不思議な信頼の色を映していた。こいつはオレを信じているのか。瞬木の感心は剣城のキーホルダーという言葉に攫われて、変わりに驚きがやってくる。
「キーホルダー」
反覆した声に剣城は深く頷いた。
「ああ。サッカーボールの形をしたキーホルダーだ」
とても大切なもので、今まで落としたことなどなかったのだと言う声は千切れそうなくらいか弱い。好きな少女にでももらったのだろうか。
「ふうん。まぁ、もし見つけたら渡してやるよ」
「あぁ。ありがとう瞬木」



特に探すつもりはなかったのだが、それは簡単に見つかった。何のことはない、手洗い場の入り口に転がっていたのである。どうやら錆びたポールチェーンが壊れてそのまま外れてしまったらしい。サッカーボールを模しているというそれはひどく色あせ、白と黒の境目も曖昧になっている。それほど古い物なのに、不思議と傷はほとんどない。ふと、先程剣城を見て想起した玩具をまた思い出す。あれも買ってやってからかなり経つし、始終壁に額をぶつけているくせに怪我は少ないのだ。



剣城は飽きもせず廊下を歩き回っていた。おい、と背中に声をかける。
「あったぞ」
角砂糖ほどの小さなサッカーボールを掲げて揺らして見せると剣城はぱあっと瞳を輝かせた。普通に近づいて来ているだけなのに、餌を見せられて一目散にこちらへ駆けてくる犬に見えて慌てて擦る。剣城が小さく首を傾げた。
「どうした」
「いや……、ほら、これ。トイレの前に落としてた」
瞬木のものより随分と青白く、少し大きい掌にそれを落とすと、剣城はもう逃がすまいとそれを握り込み、幸せそうに微笑んだ。
「あぁ、先にそっちを探せば良かったのか……。すまない、助かった」
「……それ、そんなに大切なものなのか。えらく古いみたいだけど」
「あぁ。にいさ……、いや……、あ、兄が初めて買ってくれたものなんだ。誕生日プレゼントだと言ってな。随分古びてしまったが今でも何より大切なものだ」
宝物を見つめる剣城の瞳はやはり弟の瞳に重なる。瞬木があげた安物の玩具を飽きずに見つめる瞳。なるほど、そういうことか。そういえばあれは瞬木が初めて弟に買ってやったものだった。
「お前、ちょっとオレの弟に似てる」
「……お前はあまり兄さんに似ていないが」
ズレた返答に思わず吹き出した。剣城は一層怪訝そうに瞬木を見るが知ったことか。いつか似てると思うさ。背中を向けて手を振ると、今のはちょっと似てたと剣城が呟いた。

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